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  • 青木敏朗

数学の勉強から学べること

 時代の変遷と共に、数学教育の中身も少しずつ変化しているということをご存じでしょうか。ここ数年の変化では、AI技術の研究開発の必要に迫られて、以前に比べ「整数論」(単元名としては、「整数の性質」がそれにあたります。)のカリキュラムにおける比重がとても大きくなったことが挙げられます。


 また、昔に比べて「論理」(単元名としては、「集合と命題」のところにあたります。)を学ぶタイミングがとても早くなったことも特徴の1つに挙げられます。他にも「複素数平面」などを深く学ぶようになったことも重要な変化だと言えます。


 「論理」については、昔は高1の最後の方で学んだのですが、今は、高校に入学して比較的早い時期に学ぶことになっています。個人的には、とても素晴らしいことだと思います。なぜなら、「論理」というのは、その後の数学の学習全体に極めて大きな影響があるからです。


 ところで、「整数論」の中で扱うテーマの1つに「n進法」と呼ばれる単元があります。例えば5進法では「2+3=10」になったり、「3×4=22」になったりして、まるでこれまで学んで来た数学に反するようなことを目にするわけですから、子供たちにとっては、なかなか理解するのが難しいようです。ましてや5進法や4進法を使って、足し算や引き算だけでなく、掛け算や割り算もするわけですから、それこそ「何がなんだか分からない」といった混乱を引き起こしやすく、私共では出来るだけ時間をかけ、丁寧かつ分かり易い説明を心掛けています。


 この「n進法」の指導をする際、いつも感じることなのですが、「人間という生き物は、極めて洗脳され易い生き物である」であるようです。そもそも私達が十進法を使うのは、たまたま両の手に10本の指があったからに過ぎません。もし、それが8本だったとしたら、当然のことながら私達は8進法を使っているはずです。要は、十進法などというものは相対的なものであり、偶然に過ぎないのです。ところが、私達は生まれたときからずっと十進法を使って生きてきましたから、大半の人は十進法でしかものを考えられないようになってしまっています。

 

また、「論理」のところでは、テーマの1つとして命題の真偽について学びますが、命題における「真」とは、単に「仮定」を満たす解の集合が、「結論」を満たす解の集合の部分集合であることに過ぎず、子供たちがよくつまずく「必要条件」と「十分条件」も、集合の包含関係を表す概念に過ぎません。


数ⅠAや数ⅡBでは、上記のような、言わば数学教育における土台となる様々な要素を習得し、数Ⅲにおいては、小学校の算数以来、数ⅠAや数ⅡBまでに学んで来た全ての事柄が統合され、ここで数学教育における一応の完結を見ることになります。この後、大学ではそれまで学んだ数学の知識を土台として、それぞれの専門分野をより深く学んでいくというのが、日本における理系教育のスタイルだとなるわけですが、なかなかよく考えられたシステムだと、いつも感心しています。


 ところで、数学という教科を学ぶ意味は、数学の学習のためだけにあるのではありません。現在では、日常生活の様々な分野に数学が多大な影響を与えていることはご存じだと思いますが、数学は日々の生活を送る際、多くの場面で必要となる「思考」や「思索」の強力なツールとなり得ます。


 前述の「人間が洗脳されやすい生き物である」ということについては、実は社会のあらゆるところにその弊害が見られます。例えば、多くの人々はテレビや新聞のニュースで流れる事柄は「真実」であると信じる傾向がありますが、実際はとても「真実」とは言い難く、むしろ明白な「虚偽」あるいは悪意ある「嘘」であることも多いのです。


 報道された事柄が本当であるかどうかを知るには、複数のソースから得られた情報に矛盾がないかどうかを精査しながら、論理的な飛躍がないように注意しつつ、検証された事実に基づいて結論を得るようにしなければなりません。また、歴史の勉強、特に近現代史を真剣に学ぶ必要があります。歴史を学ばずして、現代という時代に我々が生きている意味や起きている事柄の意味を知ることは出来ません。


 私が考えるところでは、今後、世界は余り望ましい方向には進んで行かないように思います。だからこそ、若い人たちには今まで以上に真剣に学び、時代の往く末を深く洞察し、未来に対する備えをしっかりやって欲しいと願っています。数学の勉強は、きっとその大きな助けになると、私は信じています。

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