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  • 青木敏朗

このようにして感染は広がっていく

 新型コロナ肺炎の感染があちこちで広がりつつありますが、松阪のような小さな地方都市でも、感染拡大の可能性は決して小さくありません。今回、感染拡大のシナリオの一例を考えてみました。これを読んで、是非、危機感を持って感染拡大に備えて下さい。「自分は大丈夫だ」という根拠のない自信だけでは、危機を乗り越えることは出来ません。


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 中国湖北省武漢市にあるトヨサン自動車の品質管理部門の責任者を務める王宇航(ワン・ウーハン)は、妻の雨桐(ユートン)、娘の梓涵(ズーハン)と一緒に、春節に先立つ1月15日から1週間の予定で日本への旅行を計画していた。


梓涵:「父さん、日本に着いたらどんなところに連れて行ってくれるの。」


宇航:「梓涵は三重県っていう西日本にある県の名前を聞いたことがあるかい。三重県には伊勢神宮という神社があるんだけれど、毎年1000万人近くの観光客が訪れるとても有名な神社なんだよ。1000万人というと我々中国人からしたら大した人数ではないかも知れないけれど、日本の人口が1億3千万人弱だから、ざっと日本人の10人に1人が行っている勘定になるね。檜で作られた社殿や社殿までの砂利道の両側には樹齢数百年の杉の大木が生えていて、とても荘厳なところらしいよ。今回は、その伊勢神宮に行く前に、手前にある松阪市というところで美味しい牛肉を食べることも予定してるんだ。立ち寄る予定の花銀という高級料理店は、松阪肉というブランドでとても有名なんだ。母さんは、美味しいものに目がないから、とても楽しみにしているらしいね。」


梓涵:「私もとても楽しみだわ。」


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 中条努は、松阪で小さな医院を営む内科の医師である。いつも木曜日の午後は、医師会の会合があったりで、家族との夕食の時間に合わせて帰ることが出来ないことが多いのだが、今週の木曜日は、久しぶりに時間が取れそうなので、家族と一緒に夕飯でも食べに行こうと考えている。しばらくおいしい牛肉を食べていないので、花銀のすき焼きが食べたくて仕方ない。娘の百萌が花銀のすき焼きが大好物だから、たいそう喜ぶだろう。

  

中条:「母さん、今週の木曜日は時間が出来たので、家族で一緒に花銀にすき焼きを食べにいかないか。」


中条妻:「あら、いいわね。きっと百萌も喜ぶわ。じゃあ、私、予約を入れておくわね。」

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梓涵:「父さん、この列車、いつ松阪に着くの。」


王:「所要時間は名古屋から1時間10分だそうだから、あと20分ほどかな。あっ、車掌さん、ちょっと良いですか。松阪に着いたら、駅前でタクシーは拾えるかな。」


田中(車掌):「お客さん、どこに行かれるんですか。」


王:「花銀という店に予約を入れているんだが。」


田中:「じゃあ、南口ですね。駅を降りたら、前にタクシー乗り場がありますから、すぐに拾えると思いますよ。」


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中条妻:「百萌、用意出来たの。予約は7時なんだから、早く準備してね。」


百萌:「分かっているわよ。今、学校から帰ったばかりなんだから、あまり急がせないで。」

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王:「タクシー乗り場は、そこだな。」 「運転手さん、花銀までお願いするよ。」


大野(タクシー運転手):「はい、花銀ですね。分かりました。」


大野:「お客さん、着きましたよ。右手の入り口から入ると、すぐ右にフロントがありますから、そこで予約の確認をしてください。」


王:「ああ、ありがとう。」


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中条:「さあ、着いたよ。父さんは、駐車場に車を入れてくるから、母さんたちは、先にフロントに行っててくれるかい。」


花銀フロント:「いらっしゃいませ。ご予約を頂いている王さんですね。ご案内の用意が出来るまで、ロビーでしばらくお待ちください。」


中条妻:「済みません。7時に予約の中条ですが。」


フロント:「あら、中条様の奥様ですね。お久しぶりでございます。準備が出来ましたら、お声をお掛けしますので、ロビーでお待ちください。」


中条:「母さん、百萌、お待たせ。何だか、混んでるな。」


中条妻:「そうね。今日は中国からの観光客が沢山いらっしゃっているみたいだわ。さっきも団体さんが帰られたところよ。」


百萌:「中国は、そろそろ春節という休みなんだって。早めに休みを取る人もいるのかなあ。」


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 その数日後、市内の某進学塾で....


塾の教師:「おい、山田。中条は今日、どうした。休みか。」


百萌の友達の山田:「朝、学校に行くとき、家に寄ったんだけど、百萌、微熱が出て調子悪いから学校休むって言ってたよ。昨日、一緒にカラオケ言ったときには元気で、はしゃいでいたんだけどなあ。」


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 遠鉄特急の車掌を務める田中の自宅は松阪市内にある。百萌が学校を休んだ翌日の朝、田中の家では....


田中:「洋子。どうも体がだるくて仕方ないんだ。今日は午後からの勤務なんだけど、病院に行こうと思うので、会社は休むことにするよ。田端さんに電話しておいてくれないか。」


田中の妻:「あなた。昨日の晩、同僚の皆さんと居酒屋に行ってたけど、飲み過ぎたんじゃないの。電話はしておくけど、お昼は自分で何とかしてね。」


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 タクシー運転手の大野の自宅では....


大野:「安江。何だか今日は朝から体がだるくて、熱もあるようなんだ。会社の方に、今日は休むと電話をしておいてくれないか。そういえば風邪薬あったよな。それ飲んで、夕方まで寝るよ。夕飯の時間になったら、起こしてくれ。」


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 その頃、武漢の王家の家族は、父親の宇航、妻の雨桐、娘の梓涵は3人共、出来たばかりの火神山病院に隔離状態に置かれていた。

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