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  • 青木敏朗

命の意味

 月に1, 2回程、チューリッヒに住む妹とFacetimeを使って話をしています。彼女は20代で欧州に渡り、既に向こうでの生活が40年ほどになります。夫とは10年程前に離婚し、子供もいないため、もっぱら話題はどうしても年老いた両親の話になりがちです。


 両親は共に昭和2年の生まれで、今年で2人とも満93歳になりました。現在、父は認知症が進行し、家族の判別も出来なくなったため、今年の10月から認知症患者向けの老人介護施設で面倒を見てもらっています。母はほぼ毎日デイサービスに出かけ、そこで一日の大半を過ごし、夕方4時過ぎに帰宅し、夕食を食べ終わるとすぐ自室のベッドで休みます。


 妹と貧しい子供時代のことや老いた両親の話をしていると、知らないうちに頬を涙がつたっていることも多いのですが、貧しくとも一生懸命働いて僕たちを育ててくれた両親のことを思うと、今は感謝の気持ちしかありません。


 父は幼い頃に両親を結核で亡くし、6人ほどいた兄弟姉妹の半数を同じく結核で失い、残った子供たちは皆バラバラになって遠縁の親戚に養子としてもらわれていったと聞いています。実際、父の兄弟姉妹で僕が知っているのは、数年前に亡くなった叔父だけです。


 父は養子先の家庭で余り幸せではなかったのか、14歳の時に半ば家出同然で海軍特別年少兵に志願しました。その後、父は呉の大竹海兵団で機雷設置の訓練を受け、2019年3月、商船を改造した特設砲鑑「新京丸」に乗ってフィリピンからニューギニアに向かう途中、夜間、ミンダナオ島近くでアメリカの潜水艦Bowfinの魚雷攻撃を受け、乗っていた船は撃沈の憂き目に遭いました。当時、船倉にいた大半の戦友たちは逃げる間もなく、闇の中、船と一緒に海底に沈んでいったのですが、父はたまたま甲板で寝ていたため、船と運命を共にすることなく海に放り出され、味噌樽につかまって漂流中、翌日、友軍の駆逐艦に無事救助されました。


 その後、モルッカ諸島にあるアンボイナ島で終戦まで滞在していたのですが、アンボイナ島滞在中、米軍機の機銃掃射を受け、一緒にいた兵士が銃弾を受けて死亡したにも拘わらず、父は傷1つ負わず命拾いしました。また、終戦前にはマラリアに罹って生死をさまよったそうですが、たまたま特効薬のキニーネが手に入り、九死に一生を得たと聞いています。


 昨年だったか、父が不調を訴え、近くの総合病院で診てもらったところ、たまたま検査で脳内出血が見つかり、幸運にも命を失わずに済んだということもありました。本当に父は強運の持ち主だと思います。


 時々、ふと思うのですが、もし、父が沈没した船と運命を共にしていたら、もし、機銃掃射の弾が当たっていたら、もし、キニーネが手に入っていなかったら、今の僕や妹はこの世にいないし、勿論、僕の子供たちもこの世に命を授けられることはありませんでした。これはもう奇跡という以外にありません。


 最古の人類アルディやルーシーから今に至る400万年以上の間、たったの一度も命のバトンが途絶えなかったからこそ、今、僕はここに生きて、妻をめとり、自分の子供たちに命を伝えることが出来ました。この延々と繋がってきた「命の鎖」は、まさに奇跡の連続そのものです。


 若い頃から、人はなぜ生きるのか、生命がこの地上に誕生した意味はなんなのだろうかとずっと問い続けてきましたが、今は自信を持ってその理由を述べることが出来ます。命の本質とは「存続」です。祖先から自分へ、自分から子孫へと命を引き継いでゆくという営みそのものが、生命のレゾンデートルだと思うのです。


 この12月1日(アメリカ現地時間)、イーロン・マスクはメディアのインタビューに答え、2024年から2026年頃までに有人火星面着陸を実現するという計画を発表しましたが、それはまさに人類にとって新たな世界への扉が開かれることを意味します。いずれ太陽系の複数の惑星や衛星に人類は生活圏を広げ、更にその先、恐らく何千年も何万年も先のことになるでしょうが、今ではSFの世界にしかあり得ない高度なテクノロジーを使って太陽系以外の星系へと進出していくことでしょう。


 何世代、何十世代、あるいは何百世代も先の僕の子孫の誰かが、宇宙船に乗って他の惑星に降り立つ姿を想像しては、思わず笑みを浮かべてしまいます。  

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行動規範の変容

行動規範の変容 Don't be evil. → Do the right thing. → Do anything profitable. 1998年、ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンによって創業されたグーグルについては、創業時からずっと応援し続けてきました。その理由は、創業時のCorporate Code of Conduct、つまり「社是」(直訳だと、「企業の行動規範」となるんでしょうが)が