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  • 青木敏朗

能力に対する誤解

 私は塾教師というこの仕事を40年以上に渡って行って参りましたが、このサイト中の「卒業生の軌跡」のページをご覧頂いてもお分かりになるように、人間の潜在能力には極めて大きなものがあり、よく耳にする「あの子は賢い」だとか「あの子は出来ない」などという杓子定規で早急な能力の判断の仕方は、とても乱暴でいい加減なものだと常々思って来ました。


 残念ながら、学校の先生方の中にも、子ども達の能力について早急な判断をされる方がいらっしゃるようで、中には学力の高い生徒達が所属する○○クラスと、学力がやや劣る□□クラスを設けて学力別クラス編成を行っている某学校で、□□クラスに所属する子ども達に向かって「○○クラスの生徒でなければ、上位の大学には入れない」などと平気で仰る先生もいらっしゃるようです。教育効果を上げるために学力別編成をするということ自体は良いことだと思いますが、たとえ□□クラスに属していても、これからどんどん伸びる生徒がいるはずなのに、彼らに「俺たちはダメなんだ」という先入観を埋め込むような上記のような発言をするというのは、教育に携わる人間としてどうかと思います。


 また、過去にはこんな事もありました。某公立高校で、入学早々、うちの塾で学んでいたある生徒に向かって、「お前は高校では伸びない」などと仰った先生がみえたのです。その生徒は物事を理解をするのに人より時間が掛かり、同じ質問を何度も繰り返す傾向があったので、おそらくそこを捉えて、こんなことを仰ったのだと思うのですが、さすがにこの言葉はないだろうと思います。40年以上に渡って中学生、高校生を対象に教育を行ってきた経験から申しますが、物事の理解に時間が掛かることと、その子の能力の到達点にはなんら関係はありません。むしろ理解に時間の掛かる子の潜在能力を大きく育てることこそが、本来の教師の仕事なのです。


 ところで「お前は高校では伸びない」と言われた彼ですが、これは「卒業生の軌跡」にも書かせてもらいましたが、高3最後の校内実力テストで80ポイント以上の校内偏差値をとって学年トップになったのです。それくらい、人の能力を正しく判定するのは難しいことなのです。


 さて話は変わりますが、先日、高3になるある生徒が、いつになく早く模擬テストの結果を私に提出しに来ました。彼が持ってきたその結果を見て、私は「ようやくこの子も本当の自分の能力に目覚めたな」と思わず心の中でガッツポーズをしてしまいました。


 彼は三重中3年生の後半の頃に私どもの塾に入塾しました。当時、何人かの三重中生がほぼ同時期に入塾しましたが、どちらかと言うと彼はその中でも、いわゆる「出来ない」方の生徒だったのです。最も問題だと思ったのは、彼自身がそう信じ込んでいたことでした。


 高校生になっても、つい最近の高2の頃までその状態は続き、模擬試験における数学の成績は学年順位100番前後を行ったり来たりしていました。ちょうど高3になる頃だったでしょうか、何度か本人を別室に呼び出し、「自分に誇りを持たなければ、能力は決して伸びないよ。たとえ成績は悪くても、努力すれば必ず伸びるという確信を持って勉強をしなけりゃだめだよ」と、そんな事を繰り返し彼に伝えました。 


 とは言え、彼の基礎学力には、かなり不足しているところがあったので、高3になっても、高3向けの受験演習のクラスではなく、復習をしっかりさせるために高2のクラスに籍を移し、そのクラスで授業を受けてもらうことにしました。受験生なのに受験用のクラスではなく、下級生のクラスに所属させたのは、長年の経験から、それが彼にとって大切なことだと考えたからです。


 実は、高3になって伸び悩む最大の原因は、高1や高2の基礎学力が十分身に付いていないことなのです。実際、大半の高校生は基礎学力が十分ではありません。だから、彼らは高3になって慌てて受験勉強を開始しても、大して伸びないのです。


 そんな訳で、彼は高2クラスで勉強を開始したのですが、同じところを2度やったことで理解が深まり、それとともにやる気も出て、途中で受験演習のクラスも自分から聴講するようになりました。さて、そんな中での今回の模擬テストの結果です。


 ご覧のように、この7月に行われた進研模試において、彼は全国偏差値71.0を取り、学年で5番、三重県に於ける都道府県順位でも1,291人中23番という好成績を獲得したのです。下の成績は、入塾時のおなじくベネッセの「学力推移調査」の結果ですが、当時の彼の全国偏差値50.3、校内順位91番からすると、いかに今回の結果が劇的かが分かります。


 ところで、能力とは一体なんなのでしょうか。私は、それは「自分を信じる心」、「最後まであきらめないこと」であると思います。塾や学校の先生だったり、親だったり、1人の子供に関わる大人は沢山いますが、子供と関わる大人にとって大切なのは、彼らの能力を信じ、ともすれば自信を失いがちな彼らを絶えず励まし続けることだと思います。繰り返しますが、人の能力を正しく判断するのは、本当に難しいことなのです。


 

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